- このページではストーリーのネタバレ無しでNintendo Switch版『レイジングループ』のレビュー・感想を記述しています
- 物語の結末や重要な内容には触れていません
- 公式サイトやストアページに記載されている範囲の情報であらすじを紹介しています
『レイジングループ』
『レイジングループ』（2024年1月現在）
- KEMCO（2015-2018）
- テキストアドベンチャー ビジュアルノベル ホラー サスペンス
- 3056円（PS4 Steam Switch）
上記はダウンロード版の価格です。PS4パッケージ版、スマートフォンアプリ版、Steam以外のPC版などの情報は公式サイトをご確認ください。
あらすじ
主人公、房石陽明はバイク旅行中に事故に遭い、とある集落に迷い込みます。おおかみ信仰が根付く閉鎖的な集落「休水」は、どこか異様な空気に満ちていました。
バイクを修理して立ち去ろうとする陽明でしたが、突如集落全体を包み込む濃霧が発生。休水の住人たちは異常なほどに恐怖し混乱した様子を見せます。
夕霧。それは狂気渦巻く血塗られた儀式、「黄泉忌みの宴」が始まる合図でした。
その日の夜、陽明は何者かに殺害されてしまいます。しかし、気づくと休水を訪れる前の状態に戻っていました。どういうわけか「死に戻り」することになってしまった陽明は、休水の怪異と狂乱に巻き込まれていきます。
繰り返される死と惨劇の果てに、房石陽明は死に戻りの謎と休水の怪奇を解明することができるのでしょうか。
ゲーム概要
『レイジングループ』は人狼ゲームを独自に解釈した長編ホラーサスペンスノベルゲームです。シナリオでは選択肢による分岐が発生し、物語は複数の結末へ枝分かれしていきます。
音声はフルボイスとなっています。18名の主要キャラクターからその他のキャラクターに至るまで全ての台詞が音声付きで楽しめます。
ルートと分岐はシナリオチャートで管理され、いつでも既読の好きな場所にジャンプすることができます。バックログ、オート進行、既読スキップ等の機能に加え、文字送りの速さ調節、ルビの量調節、残酷表現のオンオフ、キャラクターごとのボイスのオンオフ、などのオプションがあります。
クリア後には暴露モード（通常シナリオの中に各キャラクターの心の声が追加されたモード）、エクストラシナリオが解放されます（スマートフォンアプリ通常版ではエクストラシナリオは別売）。
全体の感想とクリア時間
クリアまでの時間は25時間ほどでした（バッドエンドを含む各種エンディング、クリア後の暴露モード、エクストラシナリオ読了までの時間）。
テキスト送りの速度は最速、暴露モードは既読シーンをスキップしての時間なので、ゆっくりしたペースで読み進めた場合プレイ時間はさらに長くなると思います。
ノベルゲームとして非常に読みごたえがあり、文句なしに面白い作品でした。次々に襲い来る謎、死、恐怖、狂気。激しい感情と非情なロジックがせめぎ合う「黄泉忌みの宴」。その緊張感と興奮にぐいぐい引き込まれました。
一方で、作風にアクが強く好みが分かれそうな部分もあると感じました。
エンディングは複数ありますが、誘導されている通りに進めば迷ったり詰まったりすることはありません。また、シナリオチャートのジャンプ機能によりこまめにセーブしなくても随時やり直しが可能で、システム面でのストレスなく物語に集中することができました。
注意点
残酷な描写やグロテスクな表現
作品内には残酷な描写やグロテスクな表現が含まれています。CEROのレーティングでは対象年齢17歳以上の表現を含むことを示すD区分となっています。
イラストではシルエット程度の表現になっているので、視覚的にそこまでキツい描写はありません。
一方、文章ではかなり具体的にグロテスクな内容が綴られています。暴力的でショッキングな描写も含まれています。
恐怖を喚起する表現、暴力、流血、解剖学的な描写（人間の中身に関する描写）等が苦手な方はご注意ください。
ゲーム内では残酷表現のオン・オフが選択可能です。
これをオンにするとグロテスクな描写が緩和されます。例えば「内臓が潰れて」のような表現があった場合、「××が×××」といった感じで伏字になります。直接的な描写を読みたくないプレイヤーには助かる機能です。
動画配信に範囲制限あり
『レイジングループ』では動画配信が許可されている範囲が制限されています。ゲームを最後まで丸々配信することは禁止されています。『レイジングループ』の動画配信を考えている方はこの点にご注意ください。
配信可能な範囲はゲーム開始時に告知されるほか、公式ホームページで確認することもできます。また、ゲーム内で「配信可能な範囲はここまで」と通知してくれる親切な機能もあります。
ちなみに配信可能な範囲はわりと広く、しっかり『レイジングループ』を味わえるボリュームはあると思います。
良かった点
読者を惹きつける謎と緊張感
私は『レイジングループ』を体験版から始めたのですが、恐怖と狂気の中で次々に浮かび上がる謎に惹きつけられて先を読まずにはいられなくなりました。
人狼ゲーム要素に関しても、ゲームのセオリーを抑えながら「本当に命が懸かっている時に何が起こるか」ということが様々な切り口で描かれていておもしろかったです。「人狼ゲームをテーマにした物語」と聞いて期待していた緊張感と興奮を十二分に味わうことができました。
深く練られた構成：人狼ゲームとしてのロジック
印象的だったのは物語の構成や設定が深く練られている点です。人狼ゲーム、日本の村の因習、ループものという要素を柱にして深い設定が作り込まれ、物語としてまとめ上げられています。
特に「人狼ゲームとしてのロジック」、「集落の成り立ちと伝統の背景」の部分にはかなりの読みごたえがありました。
議論では丁寧な理論が展開され、役割と人数に基づいた仮定が立てられたり予想外の提案が出されたりと考えることが多く、読み進めるのが楽しかったです。
深く練られた設定：集落の成り立ちと伝統の背景
『レイジングループ』はフィクションですが、読んでいると文化人類学的な知識に基づいて練られた作品であることがわかります。
文化や信仰の成り立ち、古事記や日本書紀に基づく神話や歴史についても作中でしっかり解説されています。
そういった知識に裏打ちされた物語であるため、物語の深みが増し、神話や歴史、民俗学に通じた読者でもこの物語に説得力を感じられるような内容になっていると思います。
快適に物語を読み進められるシステム
シナリオチャートではいつでも既読部分にジャンプすることができます。分岐の前で毎回セーブをする、セーブデータを分けるなどの管理が不要なのでとても快適でした。
また、何らかのエンドに辿り着く度に丁寧なヒントと次のルートへの誘導が提示されます（ヒントを見ないという選択肢も選べます）。進行に詰まったり、正しいルートを探して同じ文章を何度も読み返すといったストレスなく物語に没入できました。
好みが分かれそうな点
アクの強い内容
この作品では実在の伝承、民俗学的な視点での文化の形成や信仰などについて詳しく語られています。そういった知識に基づいたストーリーがこの作品の魅力だと思いますが、これらのジャンルに興味がないプレイヤーにとっては衒学的、理屈っぽいと感じる部分もあると思います。
文章は読みやすいですが作風やキャラクター造形は個性的です。その個性が少しくどいと感じる人もいるかもしれません。
また、議論や推理に関するシーンには文句なしに引き込まれましたが、男女間のやりとりやギャグパートなどなんともいえない気持ちになる部分もありました。
さらに人によっては不快になりかねないエグめの設定なども飛び出すので、好き嫌いははっきり分かれると思います。
キャストは新人声優
公式サイトには、キャストは声優アーティスト養成校から選出された新星たちだと表記されています。レイジングループは苛烈なシーンも多いフルボイスのノベルゲームであるため、新人を起用した結果については賛否が分かれると思います。
調べてみると「最後まで一部のボイスが受け入れられなかった」という否定的な意見もあり、気になる方にとっては致命的なマイナスポイントになりそうです。
実際、ボイスの聞き応えとしてはベテラン声優陣とは差があるように思えましたし、一部のキャラクターとキャストの声の年齢が合っていないように感じる部分もありました。
しかし私の実感としては中盤あたりで全員の声の演技や雰囲気に愛着が持てるようになり、なんやかんやで「このキャラクターたちにはこのボイスが最適だ」と感じるまでに至りました。
ちなみにキャラクターごとにボイスのオン・オフが選択できるので、どうしても気になる場合はボイスをオフにしてプレイすることも可能です。
おわりに
以上のように、『レイジングループ』を誰かに勧める上で懸念点はいくつかありますが、それを乗り越えさえすれば満足度の高いノベルゲーム体験ができると思います。
ちなみにニンテンドーストアではレイジングループの無料体験版が配信されています。最初のルートが丸々1本遊べるというなかなかのボリュームになっているので、興味はあるけど自分に合うかどうか不安という方はぜひ体験版でレイジングループの世界を味わってみてください。
一度世界に入り込んでしまえばついつい連日寝不足でプレイしてしまい、プレイしていない時も「しんないもうで」の歌詞と旋律が脳内でループする……。そんな没入感に浸れると思います。
それでは、長くなりましたがここまでご覧いただきましてありがとうございました！
